「 あ、雨… 」





お天気お姉さんは「 本日は快晴です!雨の心配もいりません 」と言っていたのを思い出す

あーあ、あのお姉さん怒られるんだろうな・・・

そう思いながら、折り畳み傘を持っていてよかったと心から思った













放課後、傘を持ってきている子はほとんどいなくて

雨が止むのを待っている子や、親に迎えにきてもらう子、

そしてダッシュで帰ろうとしている子、いろんな子がいた

私はというと折り畳み傘があるのでちょっと優越感を感じつつ帰る準備をしていた

みんなに「 バイバイ 」と手を振ってから教室をあとにする


玄関は、教室と違って人の数が少ない

靴を履き替えて、さっ帰ろう!と、傘を取り出すと

左の方から「 あーっ! 」という声が聞こえた









「 じゃん!てか、傘持ってんの? いれろよー! 」









プーッと風船ガムを膨らませる赤髪の男、丸井ブン太

この男とはそこまで仲が良いという訳ではないが、

2年のときにクラスが一緒だったときに話したりしていたので、今では会う度に声をかけるようになった

私がブン太に好意を寄せていることは、秘密なんだけどね









「 お前さ、なんで傘持ってんの? 今日めっちゃ晴れてただろぃ? 」



「 あぁ、私いつも折り畳み傘一応持ってるの 」



「 そうなん? んじゃ困ったときはに頼もーっと! 」








ニシシ、と悪戯っ子のように笑う彼はどうやら私の傘に入って帰るつもりらしい

「 ほら 」と言って手を差し伸べているので、たぶん貸せ、と言っているんだと思う

素直に傘を差し出すと、傘を開いて右側をあけてくれる








「 帰るぞ! 」








そう言って彼は笑いかけてくれたものの、私は胸がドキドキしていた

彼と、相合傘…?

それはどれほどの女の子が憧れただろう 夢みていただろう



私はそっとブン太の隣に立って、ちらっとブン太を見上げた









「 もっと寄らねーと、濡れんぞ? 」









ブン太にそう言われてもう少し近寄ると、2人は歩き出した

























「 そういえば、今日、部活は? 」








テニス部は毎日厳しい練習がある

雨の日も、風の日も、雪の日も

休みの日なんてのはあまりないと思うんだけど…








「 今日は、雨がひでーから休みになった! 」



「 あっ、そうなんだ! 」







ブン太は普段の部活の話を面白おかしく話してくれた

私はブン太の隣にいるだけで嬉しくて笑ってしまいそうだったけど、

面白い話のおかげで更に笑ってしまっていた





でも、一つ気になることが…

傘は私より背の高いブン太が持ってくれているんだけど、

あまり大きくない傘なのに、私は全然濡れていない

ブン太、もしかして、私が濡れないようにしてくれてるのかな…?

ブン太は濡れてないのかな?

そう思って確認しようと試みるけど、ブン太の背が高いせいで、反対側の肩は私からは見えない




そんなことをしている間に、いつの間にか私の家に着いてしまったようだ

たしかブン太の家は、私の家より少し向こうにあるはず

だから、私はこの傘を貸そうと思っていたのだが








「 ブン太、この傘貸すよ 」




「 いや、ここまで来たら十分だし俺走って帰るよ 」




「 でも、風邪ひいたら大変じゃん! 」




「 だいじょーぶだって。 毎日体鍛えてんだぜ?そんなヤワじゃねーよ 」




「 で、でも… 」




「 ほら、家ん中入った入った!こそ風邪ひいたら大変だろぃ? 」









そう言ってブン太は「 じゃあな 」と手を振って私に背を向けた

…その時 私が見ようと思っても見れなかった反対側の肩が見えた

やっぱり…濡れてる  髪まで濡れてるし

あれじゃ風邪ひいちゃう!!

気付いたら私はブン太の手を引っ張って、自分の家の中に招き入れていた








「 ちょ…? 」




「 ブン太、濡れてるじゃん!タオル出すからちょっと待ってて!! 」







バタバタバタ、とバスタオルを取りに行き、慌ててブン太の所へ駆け寄る

そのままタオルをブン太の頭にかけ、わしゃわしゃと髪を拭く

背の高いブン太の髪は、私が背伸びをしないと届かないくらいで

それでも私はかまわずにわしゃわしゃと拭き続ける








「 ブン太、寒くない? …あ、ココア飲む? 」







家に入ってから静かに俯いてしまっているブン太を、髪の毛を拭きながら問いかけた

目線が合うように覗き込むと、少し頬が赤いようだ

私はやっぱり寒いのかと思って、ココアを淹れようとキッチンに向かおうとした


その、瞬間


ブン太が私の腕を引き、抱きしめられてしまった

ぎゅうと抱きしめてくるので、まだ乾ききっていないブン太の髪から滴が私の肩に落ちてくる









「 ブン、太…? 」









小さく彼に呼びかけてみるものの、彼からの返事はない

しばらく私はそのまま抱きしめられていると、ようやくブン太が話してくれた










「 俺さ、すげー心配だ… 」




「 え、心配? 」




「 が誰にでもこんなことするんじゃねーかと思うとすげー嫌だ 」








なんか、よく、意味が分からないよ…








「 お前さ、可愛すぎ 」


「 こんなことされたら、止まんなくなるだろぃ 」


「 俺以外の男にこんなことしたらそいつに惚れちまうだろーが! 」


「 お前の可愛い所は俺だけが知ってればいーの 」








ねえ、ブン太?

そんなこと言われたら、私期待しちゃうよ?

期待、してもいいの…?









「 俺、が好き。 俺だけのもんになって 」









その言葉が、私の耳元で聞こえた瞬間、

私はブン太の背中に腕を回して、コクリと頷いた


そして、私たちはしばらくの間抱き合って余韻に浸っていた






彼の帰る頃には、もう空は晴れあがって、道路に残った水たまりがキラキラと輝いていた













雨も滴るいい男










20080928