忘れたいと思った

それでも忘れられなかったの

ある時気づきました

忘れられないんじゃなくて、

忘れたくないんだって

















私と仁王くんが出会ったのは、熱くて溶けちゃいそうな夏の日










「 いってきまーす! 」





勢いよく家をでた

今日は友だちとテニスの試合を見に行く予定

私はテニスをしているわけでもないし、テニスが特別好きってわけでもない

自分の学校のテニス部も、それほど強くはない

ただ、家の近くで大会があるとかで、暇つぶしがてらテニスというものを見ようとなったのだ

別に誰か目当てなわけでもなく

ただの暇つぶし

…のはずだった






ついてみれば、夏だけあって日差しは強いし、人は多いしで私たちは既に嫌になっていた





( もうちょっと日焼け対策してくればよかったかな )





あんまり日焼け止めを塗ってこなかった肌を心配する

今年は焼きたくなかったのに…










「 ねえ見て! あそこのコートすごい人だかり!

 強いチームなのかな?」








友だちが指さした向こうには、更に熱気がすごそうな人の数

たくさんの生徒が「キャー!」という声をあげ、たくさんの応援が飛び交う

しかし人が多すぎてここからでは試合のようすが全く見えない








「 見てみよっか。 」







見てみたいと思った

こんなにたくさんの人が集まる試合

どんな試合なんだろう  どんな人が戦っているんだろう

期待ばかりが胸に押し寄せる

2人の足取りを速くさせた





そこで出会うなんて、誰が予測できたかな?

ねえ、私は今も鮮明に覚えてるよ…

何一つ忘れてなんかないよ…

















「 …すごい。 」










テレビでみたことがある

有名な学校だということはすぐに分かった

たしか…

立海大付属

相手の学校は分からないけど

一瞬にして言葉を失った

…うますぎる。 テニスってこんな感じなの?

自分が思い描いていたものとは違いすぎて、




「 すごい…。 」













そして、試合が終わったのか選手が自分たちのベンチに戻ってくる

その時、ずっと私たちに背を向けてプレーしていた選手の顔がチラリと見えた





「 あ 」





目が合った   …気がした

銀色の髪をきれいに束ねた男の子

ドク、ドク…

なに、これ   心臓を鷲掴みされたような、ぎゅっとしめつける感じ

そのまま目を反らすことも出来ずに、固まってしまった

友だちの今の試合についての感想も聞かないまま












それから何試合あったのかも覚えてないけど

いつのまにか立海大付属が余裕で勝ち、選手も生徒も帰る支度を始めていた







「 …? 」



「 …あっごめん。 すごかったね!

  テニスってこんなにすごい競技だったんだね 」












友だちの声で我に返った私は、なんとか返事をしたけど…

頭の中では、あの銀髪の男の子の目、風になびく髪、あのシーンが離れずにいた

















「 おい。 」









その時、後ろから男の子の声がした

友だちが私より早く振り返って、何かに気づいたのか、 「 さっきの…!! 」 と言葉をかけていた

知り合いなのかなと思って私も振り返る






そこには、あなたがいたんだよね













「 さっき、試合みとったよな?

  俺、仁王雅治っちゅーんじゃ。 …お前さんは? 」



「 あたしは…! 」



「 あんたじゃない。 もう1人の方に聞いとるんじゃ。 」













いきなりの展開についていけない

さっき目が合った気がする男の子が、目の前にいて、

話しかけてきて、名前をきいてきて…

え、なんで、私?












「 名前は? 」










一向に答えようとしない私にシビレを切らしたのか、

もう1度、今度は私の目線に合わせるように少しかがんで聞いてきた









「   …。 」



「 な。 俺ら明日も試合あるけん、暇じゃったら来てほしい。 」



「 え、あの、 」



「 暇だったらでいいから。 な? 」









そういって仁王くんは、私の頭を数回ポン、ポンとして





「 待っとるけぇの。 じゃあな、。 」





こちらに顔を向けないまま、手をひらひらさせて去って行った。





















それが出会い

今は試合がある度に応援に行ってる

でも付き合ってるわけでもなく、メールとか、電話とかするわけでもなく

ただ応援しに行って、一言二言はなすだけ

もどかしく思うときは何度もあった

気持ちを伝えようとしたこともあった

でも、仁王くんはすぐに帰ってしまう

実らない恋が辛すぎて、諦めようとしたんだ

しばらく会わなければ、忘れられると思ってた

だけど…どうしてかな?

会えなくても、好きって気持ちは減らない

むしろ増えていく一方で

忘れたいのに忘れられない現実が辛くて



もう最後にしようと思った

最後に、仁王くんの頑張っている姿をみたいと思った

試合が終わったら、私の恋も終わり

すべてなかったことにしよう   そう思って、しばらく観にいってなかった試合にでかけた






その試合も余裕の勝利

最後の最後まで、あなたという人は格好よかった





試合がおわると同時に私はコートに背を向けて歩き出した










「 …さよなら。 」




誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた


























「 なにが“さよなら”じゃ? 」




歩き出した手首をつかまれた

その相手の息が切れているのに気づく

忘れもしないこの声

愛しい仁王くんの、声…


もう、涙を抑えることは出来なかった






「 久しぶりじゃの、。 もう来てくれんのかと思ったぜよ。 」



「 ごめ、仁王くん…。 私、もう応援にこない… 」



「 …なんで? 」



「 なかったことにしたいの。 あなたと話したこと、出会ったこと、全部。

  忘れたいの…。 」





「 …………忘れんなよ。 忘れんといてくれ。

  に忘れられたら、俺が辛いんじゃ…。 」



「 でもっ…! 私が辛いの!

  好きでも、叶わないのに… 」



「 …それは、俺がのこと好きだとしてもか? 」



「 え…? 」







不意に仁王くんが私を抱きしめた

試合後のせいか少し熱いカラダ

頑張った証拠の汗

ほのかに香る仁王くんの香水のにおい

…そして私を抱きしめる腕の強さ




ずっとこうされたいと思ってたよ

何度も夢に描いては、

何度も無理だと思って諦めてきた…

でも、今、私たちは、






「 俺、初めてと出会ったときから惹かれてた。

  いや、もう好きじゃったんかもしれん。

  あの試合のとき、の視線に気付いた瞬間から…

  なあ、好いとうよ。 だから、これで最後にするな 」






また、会えるよね

また、こうして抱きしめてくれるよね

好きって気持ち、封印しなくていいんだよね?



ねえ、仁王くん

私もあの時  あの試合  目が合った瞬間

そのときから恋に落ちてたかもしれない















「 私も、好き… 大好きなの… 」



「 あぁ。 …また、試合みにきてくれるか? 」



「 もちろん。 何度だって見にくるよ 」








仁王くんはそれを聞いて抱きしめてくれていた腕を少し緩め、

私と目線が合うと優しい顔で微笑んだ





「 大好きじゃ。 もう離さんからな 」













その瞬間、










20080920