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あなたを憎むことができたなら、 あなたを嫌いだと思えたなら、 きっと、この気持ちは簡単に消えてくれただろうに… どうせなら別れと一緒に あなたへの想いの消し方も教えて欲しかったよ 少しでもボーっとする時間があれば、考えてしまうのは彼のこと 思い出すのはいつだってあの頃だ 何でもないようで、本当に大切な日々だった… 仁王くんと話している時だけはそうでもなかった 彼のことだ たぶん、考えさせないようにしてくれてるんだと思う 仁王くんと一緒にいることが多くなった頃はそんなことなかったけど 最近の彼はどこかおかしい ふと、たまに泣きそうな顔をすることがある それは本当に一瞬のことで。 見間違いなのかもしれないけど… 「 今日は雨が降りそうじゃのう… 」 いつの間にか隣にきていた仁王くんが、窓を見つめてそう呟いた 今のところ雨は降っていないものの、空を覆っている雲はどんよりしている これはすごい雨になりそうだ… 「 これじゃ、今日はテニスできそうにないね 」 「 あぁ。たぶん筋トレかなんかじゃろうな 」 「 めんどくさいからって、サボっちゃだめだよ? 」 「 分かっとるって。最近真田にも目ぇ付けられとるし… あの大声どうにかならんもんかの 」 「 はぁーっ 」と大袈裟に溜め息をついた仁王くんが、とても嫌そうな顔をしていたのを見て思わず笑ってしまった そんな私を見て、彼は少し嬉しそうに穏やかな表情を浮かべたまま私の頭を撫でてくれた …この手に、何度助けられただろう ブン太と別れてからの私は、とても笑えるような状態ではなく むしろ生きていくことすら嫌になっていた それでも私が今こうして笑っていられるのは、 目の前にいる優しい彼がいてくれたからだと思っている 彼がいなければ、私は笑うことすらできなくなっていただろう… 今日も仁王くんと帰る約束をした私は、部活が終わるのを自分の教室で待っていた ブン太と付き合っている頃もこうして教室に残っては、ドキドキしながら待っていた 仁王くんを待っている時間はドキドキこそしないものの、嫌ではなかった ずっと、ブン太とはち合わせてしまうことを恐れていたけど、 仁王くんはいつも時間をずらしてくれているのか、帰りに会ったことは一度もない ( 雨、どんどんひどくなってるなあ… ) 雨音がどんどん強くなってきていて、遠くからは雷の音まで聞こえてきた ボーっとグラウンドに出来た水の道を眺めていると、一本の傘をさして帰ろうとする男女がみえた 肩から下しか見えなかったけど、それはよく知った後ろ姿で。 「 ブン、太… 」 私は、雨が中に入ってくるのも気にせず窓をあけると、雨の日独特のにおいが鼻をついた でもそんなことも気にならないくらい、大好きだったあの背中を見つめていた 私たちも雨の日には、一つの傘に肩を並べて入っていたよね… いつもいつも、自分ばっかり濡れて私が濡れないように気を遣ってくれたよね… それはまるであの頃の私たちを見ているかのようだった 彼女の体を自分の方に寄せ、彼女が雨に濡れないようにと傘をさしている そんなことを考えている自分が、惨めに思えた ブン太は私のことなんかもう忘れてしまったのだろう 私にしたように、大好きだったあの笑顔を彼女に向けているのだろう 彼の隣に、私はもういない―――… 泣きそうになる気持ちを必死に抑えていると、 スカートのポケットに入れてあった携帯が震えたのが分かった 『 玄関で待っとる。 』 ただ普通のメールなのに、何故か私は泣きたくなった それをまた抑えて、窓を閉めてから用意してあったカバンを持ち教室を後にする いつになったら、忘れられるのだろう? こんなんじゃいけない、早く忘れないとって思うのに あんな所を見てしまうだけで気持ちが止まらなくなる 私はまだ、前に進めていない 私だけあの日で立ち止まってる 忘れることが不可能だと言うのならば、 せめてこの記憶を消してください… あの人と出会ったこと、好きになったこと、幸せな日々、辛い出来事… すべて消えてくれたなら、こんなにも辛い想いをせずにすむのに それでもあなたを憎むことが出来ないでいる私は、 どうしようもないほどのバカなのだろうか… もうバカだろうがどうだっていい そんなことより、どうかお願いです 私のこの想いを消し去ってください―――… 20081103 |